これってハラスメント?
職場におけるハラスメントには、パワハラ、セクハラ、マタハラなどの類型がありますが、具体的にはどのような行為がハラスメントに該当するのかがわからず、適切な対応がなされていない事例も少なくありません。職場でのハラスメントが長期化し、不眠や不安を抱えて心療内科に通院し、精神疾患と診断され、その治療を長期間継続されている方は多数おられます。しかし、十分な薬が処方され、カウンセリングや休息も受けても、職場への恐怖感や不安感が軽減せず、回復が遅れてしまっているケースが多々あります。
そのようなケースでは、心療内科で適切な治療を受けたとしても、職場環境が改善されなければ、早期の復職は困難となる場合も少なくありません。
【各種ハラスメントの定義】
⑴パワハラ(平成30年10月17日 雇用環境・均等局)
職場のパワーハラスメント防止対策に関する検討会報告書においては、以下の1から3までの要素のいずれも満たすものを職場のパワーハラスメントの概念として整理しています。
1.優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
当該行為を受ける労働者が行為者に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係に基づいて行われること
○ 職務上の地位が上位の者による行為
○ 同僚又は部下による行為で、当該行為を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
○ 同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は 拒絶することが困難であるもの
2. 業務の適正な範囲を超えて行われること
社会通念に照らし、当該行為が明らかに業 務上の必要性がない、又はその態様が相当でないものであること
○ 業務上明らかに必要性のない行為
○ 業務の目的を大きく逸脱した行為
○ 業務を遂行するための手段として不適当な行為
○ 当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える行為
3. 身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること
○ 当該行為を受けた者が身体的若しくは精神的に圧力を加えられ負担と感じること、又は当該行為により当該行為を受けた者の職場環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること
○ 「身体的若しくは精神的な苦痛を与える」又は「就業環境を害する」の判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」を基準とする
⑵ セクハラ
一般的に、「本人の意に反する性的な言動」をいいます。
具体的には、
(1)職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けること(対価型セクハラ)
(2)職場において行われる性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること(環境型セクハラ)
の2種類があります(男女雇用機会均等法11条1項参照)。
⑶マタハラ
妊娠・出産したこと、産前産後休業又は育児休業等の申出をしたこと又は取得したこと等を理由とした、
①解雇その他不利益な取扱い(男女雇用機会均等法第9条第3項、育児・介護休業法第10条)又は、
②上司や同僚による嫌がらせ(ハラスメント)
のことを指します。
⑷アカハラ
大学や大学院などで教職員や学生間において地位や人間関係などの優位性を利用し、相手に対して精神的や肉体的な苦痛を与える行為のことを指します。
どこまでが指導で、どこからがパワハラ?
パワハラは、どこまでが指導として業務の適正な範囲で、どこからがパワハラに該当するのかが不明確であるため、職場において日常的に発生しやすいハラスメントとであるといえます。
【パワハラに関する概況】
厚生労働省が発表した「平成29年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると総合労働相談は10年連続100万件超、内容は「いじめ・嫌がらせ」が6年連続トップとされています。また、平成29年4月に厚生労働省から発表された「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」の報告書によると、以下の通りパワハラは深刻かつ身近な問題であることがわかります。
1:相談窓口において相談の多いテーマは、パワーハラスメントが32.4%と最も多い。
2:過去3年間に1件以上のパワーハラスメントに該当する相談を受けたと回答した企業は36.3%
3:過去3年間にパワーハラスメントを受けたことがあると回答した従業員は32.5%
【精神科医からみたパワハラ】
1.パワハラにより、職務満足感やモチベーションは著しく低下する。当該上司との円滑なコミュニケーションは困難となり、仕事上の報告・連絡・相談ですらストレスとなります。
2.パワハラが日常的に継続されると、うつ病、適応障害、PTSD、不安障害等、精神疾患の発症リスクが高まります。
3. パワハラはパワハラをする方にとって自覚しにくいものです。それはその上司の性格や普段のコミュニケーションと密接にかかわったものだからでしょう。例えば、上司の元々の性格がわがまま(自己愛的)であったり、被害的な感情を持ちやすい傾向であったり、もしくは完璧主義で神経質な場合などは、上司が第三者からパワハラを指摘された後でもパワハラは改善しないことが多いのです。また、上司にコミュニケーション上の問題(例:場の空気を読めない、言葉の背景にある感情や文脈を適切に推測することができない、比喩的な表現を理解することが極端に苦手)がある場合は、パワハラを具体的に指摘し、指導しても十分な理解や改善が得られないものです。
【産業医からみたパワハラ】
平成26年6月25日に公布された「労働安全衛生法の一部を改正する法律」(平成26年法律第82号)によって、「ストレスチェック制度」が新たに創設されました。(平成27年12月1日施行)。厚生労働省は「パワーハラスメント対策導入マニュアル(第3版)を作成し、「パワーハラスメント対策支援セミナー」を全国で開催するなど、その対策は進んでいます。その一方、メンタル不調者の中で、上司への不満やハラスメントを訴える事例が減る傾向はありません。一般にパワハラで精神的苦痛を会社側に訴えるようなケースでは、休職して精神状態が一次的に改善しても、復職の際にパワハラをした上司と同じ部署に復帰することに強い拒絶を示すケースが多く、職場としても対応に苦慮する事例が多いと言えます。また、ストレスチェック後の産業医面談において、上司のパワハラが話題になることは少なくありません。公になっていないパワハラも実態が十分に解明されておらず、会社側もその問題を十分に認識できているとは言えないでしょう。
【精神障害の労災の発生状況】
精神障害の労災の発生状況(平成29年)をみると、請求件数は増え続け、支給決定件数も高止まりしています。もちろん、パワハラだけがその原因ではないのでしょうが、少なくともパワハラは企業にとってコンプライアンス上、重要な課題であることは間違いありません。
【法的にみたパワハラ】
パワハラ行為が存在し、それにより従業員に損害が生じた場合には、雇用主は当該従業員に対して、民事上の損害賠償責任を負う可能性があります(民法709条、民法715条1項)。
また、使用者が上司や同僚等によるいじめ・嫌がらせやパワハラの存在を探知できたにもかかわらず、これを認識せず放置したような場合、直接の行為者である加害者とならんで雇用主が不法行為(民法719条)の責任を負う可能性があります。
さらに、パワハラ行為の態様によっては、雇用主は、労働契約上の安全配慮義務や職場環境整備義務(労働契約上の信義則や労働契約法5条)違反を理由とした債務不履行責任(民法415条)を負う可能性があります。
雇用主が、従業員からパワハラ行為を受けたと主張している場合に、雇用主と従業員との間で良い解決を図ることができない場合には、訴訟や労働審判、民事調停等の方法により解決が図られることとなります。通常、訴訟、労働審判、民事調停等は、証拠に基づいて解決が図られることになりますが、一般の方が、独力で、裁判所に納得してもらうだけの証拠を確保することは大変な作業ですし、訴訟、労働審判、民事調停を提起し、裁判所において解決を図るまでに膨大な労力を消費する場合があります。
【ハラスメントへの解決策】
1.相談の準備
・パワハラだと感じたことが起こった日時
・どこで起こったのか
・どのようなことを言われたのか、強要されたのか
・誰に言われたのか、強要されたのか
・そのとき、誰がみていたか
・どのような証拠があるか
2.相談窓口
企業・職場内に設けられたコンプライアンス担当部署もしくは内部通報窓口
勤務先での産業医面談
(治療を希望する場合)心療内科・精神科
会社がある場所の労働局または労働基準監督署に総合労働相談コーナー
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