Columnコラム

新入社員研修について

新入社員研修について
医師は、患者が求めるものを患者に提供し、患者からの期待に応えることで、患者から肯定されるようになります。医師自身が素晴らしいと思うもの、世間が素晴らしいと思うものではなく、個々の患者が求めるものが大切なのです。患者が「1+1はなんですか?」と聞かれれば、学校では「2です」と答えることが正解ですが、医療現場では医師は「どうしてそんな質問をするのですか?」と応えることが正解です。なぜなら、患者は1+1が2であることを知っており、わざわざ医師に対して「2」と答えることを求めていないからです。

 

 

これは私が22年前に研修医の頃、当時バイトで勤めていた病院のとある方が私に語ってくださった言葉です。駆け出しの研修医であった私は、その言葉とその方の患者中心の姿勢に感動しました。それから20年以上の年月が経ちましたが、私はその時のことを今でも鮮明に記憶しています。私が産業医の業務に従事するようになってから新入社員向け研修を依頼されるようになりましたが、その都度、私はその方の言葉を、患者→上司、医師→新入社員、医療現場→職場と置き換えて、引用していました。その反応は、私の受け止め方と同様に、熱烈でポジティブなものでした。

 

ところがここ2〜3年、私が同じ内容を新入社員に教示しても、特に新入社員において、好意的な反応は少なくなってきていました。それを受けて、ついに私は、本コラム冒頭の引用文を昭和的な悪い上司の典型例として新入社員に紹介したところ、一人の新入社員から「上司には大事なことをそのまま分かりやすく伝えてほしいので、その通りだと思います。できれば、仕事で大事なことは全て動画サイトにアップして、それを僕らがいつでも閲覧できるようにしてほしいです。」と言われました。私は友人の産業医やお世話になっている人事部長にこの内容をシェアしたところ、同じようなことは他社でも広く認められるとのことでした。この新入社員の勇気ある発言は、人によって評価は分かれるでしょうが、私は素直に尊重したいと考えています。