離婚について

配偶者を責めること以外にすべきことは?

夫婦関係の問題で双方がストレスを感じ、心療内科を受診される方はたくさんいます。中には実際に離婚を決意している方もいます。しかし、夫婦双方が感情的になるだけで、状況が膠着したままのケースが多いものです。なぜなら、心療内科では夫婦関係における意思決定を尊重するのみで、具体的に離婚となった場合はどういうプロセスを経るものか、離婚しないためにはどのようなアプローチが必要かについて検討を深めることは致しません。離婚や夫婦問題を精神科的に検討するだけでなく、法的にも検討することで、今後の選択肢がより明確になり、夫婦関係に対する視線もより俯瞰したものとなるでしょう。

そして離婚に向けたプロセスが進むにつれ、配偶者との日常会話や離婚交渉において不安や葛藤、怒り、幻滅、喪失感等をしばしば感じるものです。離婚に向けて協議中のご夫婦は、そのような心理にありながらもご自身の健康を保ち、法律上の問題を冷静に客観的に話し合い、解決していかなくてはなりません。また、離婚後の子供の養育を考えると、別居前から子供の心理を理解し適切に配慮することが夫婦双方にとって非常に重要な課題と言えるでしょう。

【離婚の原因】
離婚の原因には性格や価値観の不一致が関係しており心理学的な理解が欠かせません。特に夫婦間でのDVやモラルハラスメントは夫婦双方に心理的な意味で複雑な問題が絡み合っている場合が多く、加害者―被害者といった単純な図式では説明がつかない事例が多いと言えます。また、配偶者の一方が大人の発達障害である場合、もしくは夫婦のコミュニケーションのスタイルに大きな相違がある場合、夫婦双方の意見や価値観のすれ違いは修復困難となりやすいものです。

【離婚問題はストレス】
様々な調査で、夫婦間の問題、特に離婚や別居はライフイベントの中で比較的上位にあげられています。そのストレスが持続すると、たとえ精神疾患にかかったことがない方でも、うつ病、不安障害、適応障害、PTSD、自律神経失調症、拒食症、過食症等になりやすくなるのです。また、精神疾患と診断されなくても、不眠や不安、食欲低下やイライラ感、胸痛や肩凝り、めまい、吐き気など、精神的にも身体的にもしばしば変化があらわれるものです。

【両親の離婚がもたらす子供への心理的影響】
これまでの研究によると、子供は両親の離婚に際して、十分な情緒的準備ができていないことから、苦痛、不安、怒り、ショック、不信感にさいなまされることが指摘されています。また、離婚や別居に関して両親から十分な説明をうけていないことが多く、孤独や混乱を体験するとの指摘もあります。また、こどもが両親の離婚を経験した際、その抑うつを乗り越え、現実を受容し、希望を見いだすようになるまでには、それ相当の時間がかかります。また、子供のケアと同時に親自身への支援も、ゆとりのある子育てを続けていく上で重要になるでしょう。

【片親疎外症候群について】片親引き離し症候群Parental Alienation Syndrome、略称PAS
片親引き離し症候群とは、両親の離婚や別居により、子どもと同居している親(監護親)が、もう一方の親(非監護親)に対する誹謗や中傷、悪口などを子供の前で言うことで、子供に非監護親へのマイナスなイメージが定着させ、正当な理由なく子どもに片方の親との関係を喪失させる状況を指します。
これによって、子どもに学業成績不良、睡眠障害、抑うつ症状、自殺企図、違法行為、風紀の乱れ、薬物依存などの問題、同居親との関係悪化などが生じるとされ、引き離しを企てている監護親の行為は、子どもの情緒に対する虐待であるとも指摘されています。
お子様を養育中のご夫婦にとって、離婚問題の初期段階から子供のメンタルヘルスを理解することが重要です。しかし、残念なことにそのような子供への配慮が軽視されがちなケースが多々ございます。

【法的にみた離婚問題】
弁護士からみた離婚問題のポイントは以下の通りです。
1.金銭的問題
財産分与、慰謝料、年金分割、婚姻費用
2.離婚に関する交渉
協議離婚(87.8%)、調停離婚(9.7%)、裁判離婚(和解離婚、認諾離婚)1.0%
3.裁判所が扱う5つの離婚事由
〔民法770条(裁判上の離婚)〕
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき
三 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
2 裁判所は、前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。
4.不貞行為に関して
配偶者に不貞行為があったことを立証するためには、事実を裏付ける証拠が必要です。具体的には、以下のようなものが証拠となり得ます。
浮気現場の写真、ビデオ、浮気を認める録音データ、性的関係を認める手紙やメモ、日記、ホテルに入ったことを示すGPSの記録、探偵などの第三者の証言、浮気相手とのメールや通話履歴、浮気相手からの手紙、贈り物
5.DV(身体的、精神的暴力)について
夫婦間でのDVには、殴る蹴るなどの身体的暴力以外に、「無視する」「否定する」などの精神的暴力も含まれます。以下は夫婦間のDVの一例です。
殴る、蹴る、刃物などを体に突きつける、髪を引っ張って引き摺り回す、呼吸が止まりそうなくらい首をしめる、体を傷つける可能性のあるもので殴る、話しかけても無視する、やることなすことを否定する、行動を管理しようとする、誰のおかげで生活できているんだと高圧的なことをいう、家族や友人についてバカにする発言を繰り返す、外で働くなと言い、仕事を辞めさせる
6.子供に関すること(親権、面会交流、養育費、戸籍と姓)
親権には財産管理権(子供の財産を守るために親がしていいこと)と身上管理権(子供の権利を守るために親がしていいこと)がある。
親権については、どちらが受け持つかを決めない限り、離婚届は受理されず、法的に離婚が認められない。